地域に愛される酒屋「ささ蔵成桝」(千葉県市川市)

2018年10月7日

ささ蔵成桝の外観

ささ蔵成桝の外観。閑静な住宅街の中にある。

苦境に立たされる「酒屋」という業態

みなさんは「酒屋さん」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
多くの方はサザエさんに出てくる三河屋さんのような酒屋を思い浮かべる方は大いに違いない。
私の実家でも昔は週一回、サブちゃん(※サザエさんの登場人物)のような方が家を訪れたものだ。しかし、今はもう来なくなってしまった。
酒を売るには他の小売業とは違い免許を取る必要がある。この免許を取るのが昔は大変難しかった。
まず、地域で認可される免許数は人口により制限されていた。また、店舗間の距離が一定以上離れていないといけないという制限もあった。
つまり、地域で酒を購入できる店舗は限られており、店舗側は商圏を独占できていたのである。
しかし、時代は移り変わった。酒の販売免許の要件は大幅に緩和され、先ほど述べた人口や距離の規制は無くなった。そのため、いまではスーパー、コンビニエンスストアに限らず、ドラッグストアやホームセンターまで酒を販売している。一方で昔ながらの酒屋は苦境に立たされている。平成7年では酒の売り場の8割近くは「酒屋」が占めていた。しかし、平成27年ではその割合は3割を切っている(参考:酒のしおり(国税庁課税部酒税課))。
これは、酒屋がつぶれている・・・・ということもあるが、酒屋からコンビニエンスストアに転換した店も多くある。
どちらにしろ、従来の「酒屋」の形態で営業を続けるのは難しくなっていると言える。
ところが、そんな時代にあって、繁盛している酒屋もいくつか存在している。
今回訪問した「ささ蔵成桝」もその一つである。
毎日客足はたえず、年に数回の日本酒の予約販売では1000本以上予約が入ることも珍しくない。年に4回開催されるイベントでは、集客人数が400人を越えるという。
駅から遠く、近くに目立った施設もなく、大きな道路に面しているわけでもない。そして、店舗も決して広くないこの店に、なぜそれだけの客が集まるのか。
それは「地域に愛される店づくり」を実践しているからだと言える。

レポート「成桝酒まつり」

平成30年9月29日土曜日はあいにくの空模様だった。
だらだらと降り続く小雨は気持ちを沈ませる。
そんな中、私は兼ねてから興味のあった「成桝酒まつり」へと向かった。
「成桝酒まつり」は「ささ蔵成桝」で三ヶ月に一回行われるイベントである。
店の軒先に試飲ブースが設けられ、客は様々な日本酒の試飲が行える。また、酒蔵から販売応援にやってくる人もあり、蔵の人と直接対話できる貴重な機会である。と、店のホームページには書いてあった。多くの来店客が訪れるとも。
こんな天候ではさすがに人も集まらないのでは…とイベントの心配をしながら市川駅まで電車を乗り継ぐ。市川駅前は予想していたよりも都会然としていた。しかし、店舗があるのはここからバスで10分、そこから更に徒歩で10分行った先である。
最寄りのバス停の和洋女子大前で降り、住宅街をしばらく歩く。
すると、目の先に人だかりが見えた。
目的のささ蔵成桝である。

ささ蔵成桝の人だかり

奥にささ蔵成桝がある。人だかりがある。

イベントの開始時間である14時を少し回ったところであったが、既に20人を越える客が集まっており、盛況と言った趣である。
店は通常二名で運営しており、店舗面積もそこまで広くない。
そして、イベントが開催されている店の軒下も決して広くない。そこに長机が置かれ、その上に所狭しと日本酒が置かれている。また、燗酒やつまみ、ワイン、焼酎のコーナーまで用意されている。
それらのコーナーを十人程度の人がせわしなく動き、サービス提供を行っている。
試飲できる日本酒は店で扱っている銘柄を広くおいてあり、試飲して気に入ったならば帰りに買うこともできる。
私も早速試飲をさせていただいたが、そうしているうちにもどんどん人は増えていき、軒下に収まらないぐらいになってしまった。
このイベントは二日連続で行われるとのことだが、筆者が参加したのは一日目。二日目はさらに人が集まるという。

イベント中のささ蔵成桝

イベント中のささ蔵成桝

試飲コーナー

日本酒を中心に試飲がし放題

おつまみコーナーその1

おつまみコーナーその1

おつまみコーナーその2

おつまみコーナーその2。さば缶を燗して提供

住宅街にある小さな酒屋がなぜ、こんなに人を集められるのか

来ていた人々に参加理由を聞くと、「地元でいつもイベントに参加している」、「知人から口コミで」という答えが聞かれた。遠方からやってくる方もいるようだが、半数以上は地元の顧客だろう。
店主に話を聞いたところ、ホームページでイベントの案内は行っているが、基本的には店頭でチラシを配布する他は積極的な周知は行っていないという。
常連の方々には店の魅力は何かを聞いてみたところでは「他にはない酒がおいてある」「イベントに限らず常時複数の試飲可能」「店主の人柄が良い」という声が聞かれた。この通常営業時の試飲については、店舗のホームページに250種以上の試飲が可能と書いてある。

地元に愛される秘密

通常営業時でも試飲可能と言うことをふまえると、このイベントは客にとって「複数の酒が試飲できる」ということより、「客同士がコミュニケーションをとれる」「酒蔵の人と対話できる」というメリットの方が大きいのではないだろうか。
商売を考えるとき、店と客という関係だけに目を向けがちだが、客同士の関係性を高めることが店のファンを増やすことにつながると言える。